僕が服をつくる理由

僕が服をつくる理由

2020.10.10

はじめまして。 Taichi Uemura elmare couture WEBサイトをご覧いただきありがとうございます。
美しさを求める方々のために、オートクチュールで衣装製作や、スタイリングをさせていただくお仕事をしております。

何かを身につけるということは、それは、そのまま自分自身を表現することだと思います。

大好きなあの人に会う時、一番最初に頭に浮かぶのは、きっと、
「何を着て行こうか・・・」ではないでしょうか?
可愛らしく、あるいはちょっと大胆に。
服は、その日行く場所や、誰かと一緒に過ごす時間を考えながら、自分の気持ちをさりげなく伝える素敵なメッセージだとおもいます。

Haute Couture(オートクチュール)という言葉は、フランス語で ”高級な仕立ての注文服”という意味です。

とても高価であることに間違いありませんが、それよりも、お客様がそれを着たとき、最も美しく輝くことだけを考えながら、デザイナーや職人の費やす”時間”にこそ、その言葉の本質があるとおもいます。

このHaute Couture(オートクチュール)という世界を僕に教えてくれた
ひとりの女性がいます。
その方は、今は既に亡き人なのですが、生前、多くのことを僕に教えてくれました。
その方との出会いがなければ、今はきっと違う人生を歩んでいたと思います。
出会いのきっかけはとても些細なこと。
その方のコートを修理する依頼を受けたことからでした。

話をきけば、友人宅でコートを脱ぎそれを、その友人が飼っていた”うさぎ”のケージの近くに置いてしまい、気づけば、うさぎがコートの裾をカジッてしまい、破れてしまったのだそうです・・・。

とてもお気に入りのコートだったそうで、捨てるにしのびなく、誰か直してくれる人を探していた矢先に、偶然、知り合いの方からの紹介で僕に依頼をしてくれたのでした。

僕自身、それまで自分用の服を作ることはしていましたが、お仕事として服を直したり、作ったりすることはしていませんでした。
その時は上手く直せるかは、正直わかりませんでしたが、その方の情熱を感じ引き受けさせていただきました。

修理後お渡しすると、「前の時より良くなったわ!」と非常に喜んでいただき、それ以来、他のお仕事もたくさん依頼していただくようになりました。

その後も公私ともに仲良くさせていただき、本当に多くの事を教えていただきました。

日々の生活の仕方から、芸術、文化への興味。とても、ここで語り尽くせるものではありませんが、一番大切なことはひとつでした。

それは、「本物」を求めること。

それまで、自分が生きていた世界では「本物」か「偽物」かの境界線を判断することを意識的にすることはありませんでした。
全てが混沌としていて、それが「世界」だと思いこんで悩んでいた自分がいます。

それでも、無意識のなかで美しく素晴らしいものを求めていた自分の心の内側を、優しく開いてくれたのは、その方の「本物」への愛だったとおもうのです。

なんでもない普段から、着物を着てお料理をしていたり、Diorのドレスを美しく着こなす姿は,いまでも忘れることができません。

僕がドレスを作る約束をしたまま、この世を去って行ってしまったことが僕には大きな心残りです。

暗闇のなかで悩んでいた自分を、美しさで溢れる世界があることを教えてくれたこと。
その感謝を伝えるためにも僕はこの仕事を続けていくのだとおもいます。

おもえば、コートをカジッたあの「うさぎ」は、不思議の国のアリスに出てくるうさぎのように、僕を導いてくれたのかもしれません。